TRINUSのヒト・モノ・コトについてお伝えする「ストーリー」
#2のテーマは「モノ」。枝もの定期便をはじめるきっかけとなった「EDA VASE」(エダベース)のストーリーをお伝えします。
大きな枝ものをダイナミックに飾れる、枝もの花器「EDA VASE」
機能面はもちろん、無骨な素材使いとミニマルな佇まいが美しいこの花器は、青山フラワーマーケットとTRINUSの共同制作で誕生しました。
2021年12月、コロナ禍での発売。シンプルな機能美で注目を集め、価格は18,700円(税込)ながらも入荷するたびに完売。現在も入荷待ちが続き、人気は広がる一方です。
この「EDA VASE」の企画から製品化までを一手に率いたのが株式会社TRINUSのデザイナー・柴垣 瑛才(しばがき えさい)さん。ロングヒット作品の、制作にまつわるお話を伺いました。
ー「EDA VASE」を着想された当初のきっかけを教えてください。
青山フラワーマーケットさんに打ち合わせに行った時に、スタッフさんの意見を伺う機会がありまして。各店舗に見栄えのする大きな枝ものがディスプレイされていますが、「水替えが大変で…」という声が多かったんです。
店舗にある枝は180㎝~200㎝位の高さがあって、この枝を倒れないように飾るためには、枝の高さの半分くらい、少なくとも1mほどの花器が必要。重量がないと安定しないので、花器の中の水は2~3リットルほど必要で。大きくて重くて、かなり大変ですよね。
これは店舗スタッフさんだけでなく、枝ものを購入するお客様にも共通する悩みなので、なんとかならないか?と。EDA VASEのスタートはここからになります。
ーとてもシンプルな形状ですね。このデザインはどのように生まれたのでしょうか。
そもそも花瓶って何?枝を生けるためには何が必要?というところにフォーカスしてみたんです。すると、
「①下部に重みがある」
「②枝を挿す部分がある」
「③枝を支える部分がある」
本質的にはこの3要素があれば成立するのでは?と考えました。
この3要素の「既存の機能を拡張していく」感じで設計し、現在のEDA VASEのデザインに近づいていきます。
ー具体的にはどのように?
花器の下部の重みは、台座部分にコンクリートを使用して重みを出すことに。
高さのあるシリンダー上の花瓶の、上部の口の部分は「支える部分」に置き換わります。
これにより花器の部分は小さくすることができ、「水換えが重くて大変」問題もクリア。
小さめの花器で頻度高く交換するのは合理的ですよね。
花器の素材はポリカーボネートで、ガラスより軽く、倒しても割れない。これは青山フラワーマーケットさんでもともと使われていた素材で。
ー支えの部分についてはプロの方からも「この隙間部分がちょうどいい、スタイリッシュに感じる事ができる」という声がありました。この部分については?
そこは植物のプロである青山フラワーマーケットさんのアイディアですね。初めの段階で「横から取り出せたらいい、生けやすい」という声がありまして。
ー刻印がある通り、プロ同士の2つの会社で作り上げた感じなのですね。
そうですね。いろんな方向からアイディアが出た感じです。
ー柴垣さんご自身の作業は、実際どのように進められたのですか?
頭の中で論理的にというよりは、絵を描きメモを書き、手を動かしながら考えを進めていった感じです。
最初は30個くらいはアイディアを出しましたね。重さのある立方体に穴が開いているデザインや、木を格子状に組んだものなど…その中で、最もシンプルで本質的な回答を出せた結果、先方にも喜んでいただけて。
色々アイディアを出して選んでいく中で、最も秀でたいいものが残る、というオーソドックスなやり方だったと思います。
ー原案が決まったあと、素材調達から製品化までが大変だったとか。
はい。主には素材のコンクリートと、金属部分ですね。
代表の佐藤さんと一緒に進めていたのですが、まず「そもそも、コンクリートってどこで作るの?」というレベルからのスタートで(笑)。
大型の公共工事・土木用途の工場はあっても、民生品(個人消費者向け)や小物レベルで取り扱ってくれる工場は日本にはほぼなくて。ひたすら探してリストアップして電話して…最初の1年くらいはそれが続きました。
新しく海外担当のメンバーが入ってくれたので海外の工場もあたり、実際に現地に行くこともありましたが、なかなか品質が安定しないなど…紆余曲折は諸々ありました。
ー大変そうです…金属部分はどのような苦労が?
金属については、表面のアンティーク仕上げが調整が難しく、イメージをカタチにするのに難航しました。
ゴールドの落ち着いた印象、温かみを大切にしたいとう部分は青山フラワーマーケットさんもこだわりをお持ちで。ここはこだわって修正し、何回サンプルを作っただろうか…オフィスが試作品や失敗作に囲まれてしまって(笑)
言葉で表すとしたら「金属だけどさらさらした手触り」「つや消し、つるつるしていない」「例えば、マックブックの様なさらさら感」なんですが、理想のイメージがなかなか実現出来なくて。光沢感があったり、塗装感が目立って余分な層が1枚あるようなやぼったさがあったり…
ーこだわりと苦労の4年間、振り返ってみていかがですか?
過去にも海外で制作した製品はありましたが、パーツも製作工場もこれほど多岐にわたる製品を扱うのはEDA VASEが初めてで。待ち遠しくもどかしい思いもあったので、完成した時は感慨深かったですね。
EDA VASEは、何より枝が主役。花びらの彩りや華やかさよりも、枝ぶり、ボリューム感が魅力。それを引き立たせるための質感と色合いには、徹底してこだわりました。
ー2022年には世界三大デザイン賞の一つred dot design award 2022を受賞。追加生産が続き、とっても好評ですよね!
正直、こんなにずっと売れるんだな、すごいな…と驚きがあります。値段もしますし、製品化までの紆余曲折の中で「これ本当に売れるのかな?」と不安になるときもあったので。今、SiKiTOのサイトには購入されたお客様がたくさんレビューを書いてくださっていて。使い勝手、手入れしやすさ、飾りやすさなど、感想はとても励みになります。商品の価値が伝わっているんじゃないかなと。
「より少ない要素で 」「本質的なもののみで」構成されるものが、僕としてはとてもしっくり来るんです。無駄がなく、美観が保てるなら言うことないかなと。そういう手法で課題解決しつつ、意匠的にもよいものを作りたいですね。
ー完成した時はやはり佐藤代表や柴垣さんも感慨深いものがありましたよね?
実はあまり覚えていないんです…完成した後はすぐこのEDA VASEのクラウドファンディングをしたり、「枝もの定期便」を始める話が出たり、忙しかったので、完成は通過点で、今まで走り続けているイメージです。
ー今後の展望は?
EDA VASEシリーズの続編を開発中です。次は卓上用で、小さな枝ものに使えるサイズ展開を検討しています。水換えの楽さ、枝を美しく引き立てる要素は変わらずに、床置きではなくテーブルの上で楽しめるものになりそうです。楽しみにしていてくださいね!
EDA VASEの制作をきっかけに生まれた「枝もの定期便」では、新しく卓上用の60センチのプランをリリースしました。暮らしのスタイルに縛られず、より多くの方に四季を感じる暮らしを届けられるようになる日は近いかも?完成が待ち遠しいです。
▶EDA VASEについて詳しくはこちら
▶EDA VASEをきっかけに枝もの定期便が生まれたストーリーはこちらから「ストーリー#1「ヒト」人の立場に立つ~佐藤真矢代表」