TRINUSのヒト・モノ・コトについてお伝えする「ストーリー」
#1のテーマは「ヒト」。TRINUSの創業者、佐藤真矢代表のインタビューです。
「社長と呼ばないで」
そう社内のみんなに伝える、創業者の佐藤代表は、いつもTシャツ姿。
とある梅雨時期の平日。
オフィスの一角でオンラインミーティングをしていたかと思うと、今度は、大きな枝を自ら抱えてメンバーとともに和気あいあいとオフィスを足早に出て行きました。 経営についてはもちろん、現場でも率先して動く姿は、まさに『社長』というかしこまったイメージではなく、背中で引っ張っていくみんなのリーダーといった存在です。
佐藤代表のこれまでの歩み
佐藤真矢(さとう しんや)代表は、早稲田大学商学部を卒業後、新卒で当時の大和証券SMBC(現 大和証券)に入社。
将来的に起業することを見据えて、ベンチャー企業の株式公開業務に携わった。その後、事業の進め方も学びたいとコンサルティング会社のアクセンチュアに転職。
そこで、社会貢献活動の一環として障害者の就労施設を訪れたことが大きな転機になる。働き手の報酬が月1万~1万5千円程度しかないことを知り、処遇を改善するためデザインに注目。
デザインコンペを行い、生まれた商品は有名セレクトショップの店頭に並ぶまでに。
このコンペが原型となり2014年11月、株式会社TRINUSを創業した。
▶創業時の詳しい話はこちらの記事をご覧ください。
はじまりは1つのフラワーベース
ー今、会社として特に力を入れていることは何でしょうか?
暮らしの中に自然を取り入れ、四季を感じる時間を提供するブランド『SiKiTO』(シキト)の運営です。
中でも、枝ものを定期配送する「枝もの定期便」は多くの方に支持されています。切花よりも大きく長持ち、鉢ものよりも四季折々の表情を豊かに感じ取れます。
『枝もの定期便』の一例・ドウダンツツジ
ー『枝もの定期便』が生まれたきっかけは?
枝ものを飾るEDA VASE(エダベース)の開発がきっかけです。
かねてからお付き合いのあった青山フラワーマーケットさんの所へとある商品の打ち合わせに伺った際『枝ものを飾るフラワーベースが無い』という話を聞き『じゃあ作ってみよう』と動き出しました。
商品化に向けてとりあえず一歩を踏み出してみたのですが、予想以上に本当に大変でした。TRINUSデザイナーの柴垣君と動いていたのですが、出来るまでには紆余曲折あって。コンセプトからデザインまで形にして何度も何度も青山フラワーマーケットさんと打ち合わせました。デザインについては柴垣君くんにも聞いてみてください。
そして、TRINUSではメーカーも手配しているので、製造してくれる国内の工場を探したのですが、金額面で断念しました。そこで、作ってくれる工場を探しに中国まで行き、現地の工場を訪ねて探し回ったこともありました。販売まで結局4年もかかりました。
EDA VASE(red dot design award 2022 product design受賞)
ー近々柴垣さんにもインタビューをお願いしておきますね(近日公開予定)。そのEDA VASEのお客様の反応はどうだったのでしょうか?
社内では新ジャンルだったので『本当に売れるのかな』と心配する気持ちがあったのですが、想像以上でした。1週間くらいで300個を売り切りました。そこから2年ほど販売していますが、今も売れ続けています
ーそれがきっかけとなり『枝もの定期便』をスタートさせた?
お客様の声を聞いていると『おしゃれで枝のある生活にあこがれてEDA VASEを買ったけど、近所のお花屋さんをいくつか回っても大きな枝が売っていなかった』とか『大きな枝を抱えて電車に乗って帰るのが大変だった』『枝を自転車で持ち帰るときに転びそうになった』など、売っていない、持ち帰るのが大変という明らかな課題が見えました。
EDA VASEを通じて需要が見えてきて、さらに課題が浮き彫りになり、ビジネスチャンスであるという事がわかったんです。枝のある生活を提案しておきながら、この課題に取り組まないのは中途半端かな、と思い取り組むことにしました。
よく異業種参入とは言われますが、僕たちとしては繋がっているんですよね。自然な流れでした。
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これまで金融、コンサルと全く違う道を歩んできた佐藤代表。
今では、花き市場に出入りしたり、80代の枝ものの生産者さんと良質な枝ものを求めて山の奥まで入ったりするなど、どっぷりと「枝もの」の世界に身を投じています。
福島県のドウダンツツジ生産者さんと 撮影:佐藤代表
「枝もの」を通じて何を感じ、何を想ったのでしょうか。
後半は佐藤代表の人柄にも触れていきます。
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新しい業界での出会い、想い
ー全くの異業種への参入は大変だったのでは?
はじめは大変でしたね。どうやって枝ものを仕入れたらいいかさえわからないので、まずは大田花き市場に行ってみることにしました。
ー知り合いがいない状況で?
はい。すると、どうやら花を買うのには権利が必要だとわかり、なかなか大変だなと。そこで、市場に精通する知り合いが一人いたので、お願いをしてみました。市場はこれまで接してきた世界と全く違う、独特の文化があるんですよね。取り扱う商品にものすごく誇りを持っているというような。
ー新しいチャレンジに対して抵抗がないんですね。
そうですね。抵抗なく、どんどん新しいことにチャレンジをしていきたいというマインドです。既存のものを変えていきたい。変化はワクワクしますね。
ー元々自然に触れ合う生活だったんですか?
全く触れ合いはなかったです。でも、開発したEDA VASEを使おうと、近くの花屋で枝を買ってきて飾っているうちに『めちゃくちゃいいな、これ』ってなって。家の中で花が咲いたり、紅葉したり。
ーそれで四季を感じられるんですね。
そうそう。その頃はコロナ禍だったので、なおさら外に出られなかったしね。
ーご出身は?
神奈川県相模原市です。郊外の住宅地で育ちました。
ー小さなころの自然との触れ合いも今の仕事に影響しているかと思ったら、そうではないんですね。
元々自然豊かな所で育って自然が好き、と言う人もいるけれど、郊外のマンション育ちだからこそ、自然の良さを欲するという人もいます。
『バイオフィリック』という、人間は元々自然を欲する生き物だという考え方があるんですね。枝もの定期便を購入してくれるお客様も都会に暮らしているけれど、季節を感じたいからという方も多いかな。ここ数年で、枝のみで飾るスタイルが徐々に広がりつつあるなというのは感じます。
ー生け花人口が減少していることで、枝ものの流通量が少なくなってきています。生産者さんはこの枝もの定期便をどのように受け取っていますか?
何千本と仕入れる話をすると、びっくりして昔の取引が活発だったころを思い出すと言われますね。また、最近は60~80cmといった短い枝ものの出荷が多いそうなのですが、TRINUSは100~140cmなど長い枝ものを仕入れるので喜ばれます。やっぱり長い枝ものは枝ぶりがいい。ただ、そのくらいの大きさになるには数年から、ものによっては10年以上もかかるので、急にくださいと言っても難しいですよね。流通量をすぐに増やすというのはなかなか厳しいので、対策が必要だと考えています。
ー生産者さん自体も、高齢化や後継者不足などがありますよね。
どこの産地に行っても高齢化が進んでいて、70代が中心というところも珍しくないです。そこで、TRINUSでは長野県豊丘村と連携協定を締結し、枝もの栽培に興味のある若手人材を現地に送り込み、新たな枝ものの産地形成にも取り組んでいます。耕作放棄地を開墾して枝もの畑にしたり、山に入って枝ものを収穫したり、とても大変ですが精力的に頑張ってくれています。
ー市場の方や生産者の方々の輪に自然と入り込む姿が印象的です。
元々自分自身、周りの人とあまり壁を感じないタイプですね。買い手、という立場もあると思いますが、お付き合いするみなさんは新参者にも優しく色々教えてくれます。
ー新たな場所に飛び込むことは昔から得意なんですか?
これまで働いた業界は金融・コンサルだったので、プロジェクトが変わるごとに環境が変わります。新しい場所に飛び込むのは割と好きかもしれません。
ー何か人付き合いで気を付けている事はありますか?
うーん。相手の立場に立つ、相手の立場を意識しながらコミュニケーションをとるかな。
ー「枝もの定期便」のピンチはこれまでありますか?
日々ピンチなことばかりです。笑 今は仕入れ数量がかなり多いので、事前に産地に注文を入れているのですが、枝ものの品質は当日届いてみないとわからない。箱を開けてみてなんじゃこりゃということも多々あります。鮮度の観点から、枝ものは届いた日か、もしくは翌日に発送しているので、品質が悪い場合は急いで代わりの枝を仕入れなければならない。すぐに市場に連絡したり探しにいったり、いつもバタバタです。
ー「枝もの」については、今も知識を積み重ねているのですか?
終わらないですね。枝の代表的な品種はかなり把握しましたが、同じ品種でも産地や生産者によって特徴が異なります。そういったところまで把握していきたい。
そして、花がついている枝であれば、2分咲きくらいで送ってお客様のご自宅で咲くように、と狙っているのですが、自然のものなので思うようにならないときもある。奥深いです。
ー「枝もの定期便」の展望をお願いします。
『枝もの』を通じて四季をおうちの中に取り入れる文化を広めたいというのが一番です。枝もの定期便を広めていくことはもちろんですが、カフェなど(2024年9月に幕張エリアにオープン予定。近日お知らせします)枝ものにリアルに触れ合える機会を増やして、多くの方が『おうちの中にも取り入れたい』となれば嬉しいですね。
千葉県幕張市のカフェ・現在オープンに向け準備中です!
『四季』というと、4つしかないイメージですが、季節にはもっと細かな変化があります。枝ものや食を通して、その良さをポジティブに伝えていきたいです。
それから、海外の方にもカフェなどを通じて、日本の四季のすばらしさを伝えたいと思っています。インバウンドが増えているのでカフェを通じて訪日外国人の方々に伝えたり、EDA VASEなどの商品を海外輸出することにもチャレンジしたいです。
ー日本の四季には様々な文化がつまっていますもんね。
ところで…どうして社長と呼ばれたくないんですか。
TRINUSはできるだけオープンでフラットなカルチャーを持ちたいと思っています。そうすることで、それぞれの立場からの意見を経営や事業に取り入れることができます。
そして、誰もが経営に近い目線で意見を言える環境になることで、一人一人のオーナーシップ・マインドが向上します。
名前の呼び方はちょっとしたことですが、そんな文化を作るためには地味に大事かなと思っているんですよね。そんな背景から『社長』と呼ばれることには少し抵抗感があります。
梅雨時期の休日は、レインコートを着て喜ぶ娘さんと一緒に散歩をするという佐藤代表。枝ものに触れてから、植物にとっての雨の大切さを実感し、梅雨の憂鬱さが無くなったとも話していました。
水分を溜め込み、本格的な夏に向けてぐんぐん伸びる枝のように、佐藤代表のもと、TRINUSもさらに大きく動き出しています。
(文:TRINUS広報 遠藤萌美)